2019年4月に施行された働き方改革関連法の柱の一つは、多様な働き方の実現です。新型コロナウイルス防止対策としてテレワーク導入が一気に進んだ結果、東京など大都市圏では賃貸オフィスを構えつつ、地方に分散してビジネスを成り立たせる働き方もあるということが実感として分かってきました。

しかし従業員が分散して働くためにはオンライン会議やオンライン交渉ができる環境を整えなければならず、従業員間のコミュニケーションを維持することも大事です。そこで最近導入が進んでいるのがビジネスチャットツールです。メリットが多く、これからのビジネスシーンを変える可能性がありますが、同時にデメリットもあります。業務の効率化を的確に推進するために、メリットを最大限生かし、デメリットの対策をしっかり立てる戦略が必要です。

ビジネスチャットのデメリット・注意点

ビジネスチャットのデメリット・注意点

ビジネスチャットは今やビジネスにおいて欠かせないツールですが、使用する上でさまざまなデメリットや注意点が存在します。ここでは、ビジネスチャットのデメリットを6つ確認していきましょう。

1.ゼロではない情報漏洩の可能性

システム的にはチャット会議に提出された資料などの情報が漏洩する可能性は小さくなっています。しかし人間が利用するシステムですから、チャット会議のやり取りが漏れる可能性はゼロではありません。情報管理教育を実施する必要があるという点は、他のデジタルツールと同じです。

2.過度なコミュニケーションはストレスの要因

いつでもどこからでも参加できる仕組みは、逆に言えば、帰宅後や休日などプライベートな時間にコンタクトされることもあるということです。常に臨戦態勢を求められるように感じれば、従業員は精神的にも肉体的にも疲労します。

過度なコミュニケーションによる心身障害を引き起こすことにならないよう、利用ルールを明確にする必要があります。

3.懸念される対面コミュニケーションの低下

ビジネスの基本は、リアルな形で必要な同僚や取引相手に会い、連携や交渉をすることです。何でもチャット機能で済ませてしまうのが習慣化してしまうと、対面コミュニケーションの機会が減少します。東京などでは、固定費削減のために賃貸オフィスを引き払うという選択肢はあります。

しかし、すべて画面越しに仕事をすると、リアルな会議室に漂う微妙な空気感などをとらえにくくなることもあります。利用にあたってはバランスを取ることが大切です。

4.社内教育のためのコストが発生

全ての従業員が同じ水準のITスキルを持っているわけではないので、全員が操作できるような社内教育が必要ですし、情報管理などに関するモラル教育も必要です。そのための費用と時間、指導者への支払いなど、一定のコストが発生します。

5.ツールが併存すると混乱の懸念

すでに別のコミュニケーションツールを整備済みの組織に、新たにビジネスチャットツールを導入すると、混在によって業務効率が落ちる懸念もあります。使い分けを明確化し、そのルールを全社員が認識しておく体制整備が不可欠になります。

6.私的使用と業務の垣根があいまいになる懸念

メールやSNSと同様に、私的使用と業務の垣根があいまいになる可能性があります。重要なビジネス情報が漏洩したり、業務に関係ないプライベートな利用が増えたりすると導入した意味がなくなります。

このほかにも、個人間でやり取りをしていた場合、その情報は他のメンバーには閲覧できません。複数人で情報共有が必要な場合、情報の伝達漏れが無いよう、必要な情報は別途情報共有をする。連絡用のグループチャットを作成しておくといった工夫が必要です。

デメリットだけじゃない!ビジネスチャットのメリット

デメリットだけじゃない!ビジネスチャットのメリット

ここまでビジネスチャットのデメリット・注意点を解説してきましたが、ビジネスチャットには多くのメリットも存在します。ここでは、ビジネスチャットのメリットを6つ確認しましょう。

1.メールより気軽で便利な双方向性

メールはビジネスを進める上で重要な役割を果たしていますが、送り手から受け手への一方通行の繰り返しになります。重要なクライアントからのメール着信に気づかず、返信が遅れてしまうという懸念もあります。

その点ビジネスチャットは、まるで会話をしているように、リアルタイムで双方の意見や情報をやり取りできるため、スピード感を持ったビジネスができますし、SNSのように気軽に利用できます。

2.複数人でのコミュニケーション形成が容易

1対1で行うメールと違い、同時に多くの人数が参加できるので、グループ間でのコミュニケーションが取れます。テキストが基本ですが、音声チャットやビデオチャットも可能なツールが多く、発言した方が手っ取り早い場合や、画像や図表を示しながら説明した方が、理解が進む場合などに、効率的な情報共有が可能になります。参加者の顔を確認できるという点もコミュニケーション形成に寄与します。

3.必要性が無くなる会議室

従来の会議は主にオフィスの会議室で行われてきましたが、ツールを使えばオンラインでできるのでリアルな会議室は不要になります。東京などの大都市では、賃貸オフィスの家賃は企業にとって大きな割合を占める固定費となり得ます。しかし、ツールさえあれば全員が在宅でも会議は可能で、会議のためにオフィスを借りる必要はなくなります。

オンラインでの会議は特定の場所に移動する必要がないため、時間を節約でき、従業員の疲労も軽減されます。パソコンだけでなくスマートフォンやタブレットでも参加できるため、機密情報が漏洩しないよう、イヤホンをしたり自身の発言に注意したりさえすればタクシーで移動中など人物でも手軽に参加できるのは大きなメリットです。

4.迅速で簡単な情報の共有システム

ビデオチャットの最中に提示される報告書やデータ図表、写真や動画は、全員がリアルタイムで共有できますし、どのチームがプロジェクトを担当することになったのかという役割分担や、スケジュールを記録したカレンダー連携など、幅広い情報共通が素早くでき、責任が明確化されます。

5.業務ミス防止に生かせるタスク管理機能

チャット上で自分や自分のグループに対し、ある業務について対応するよう指示があった場合、タスク管理機能を使って業務リストとして保存管理することができます。この管理機能を使うことで、忙しすぎてつい対応を忘れてしまったといったミスを極力防げます。

6.高いセキュリティーで相当程度情報漏洩を防止

プライベートのチャットソフトに比べて、ビジネスで使用することを前提に開発設計されているので、全体的に高いセキュリティー基準となっており、企業にとって重要なデータや資料などの漏洩を防ぐことができます。

おすすめのビジネスチャットツール11選

slack

全組織や特定グループのみが参加できるなど多様なチャンネルで利用でき、不慣れな企業でも導入しやすく使いやすさが特徴です。150ヵ国以上の企業が導入しています。

Chatwork

宛先を指定できるので相手に確実にメッセージに気づいてもらえるのがメリットです。登録ユーザーの検索機能によって社外の人脈と接点を作ることが可能です。

6.Microsoft Teams

Microsoft社のOffice365有料プランに含まれているサービスですが、無料版でも一定の機能は利用できます。1000人参加できるオンライン会議や、クリアな電話システムが特徴です。

LINE WORKS

ビジネス版のLINEなのでLINEユーザーは使いやすく、企業として導入しやすいメリットがあります。共有カレンダー機能や大容量のファイル管理ストレージが役に立ちます。

Talknote

AI機能を搭載しており、参加メンバーの一人ひとりの業務意欲が把握でき、誰と誰がよくコミュニケーションを取っているかといったことを定量的に管理できます。

Wantedly Chat

求人情報サイトWantedlyアカウントと連動しており、すべての登録ユーザーと繋がれるのでビジネスチャンスを広げるのに役立ちます。チャットグループの作成数は無制限です。

WowTalk

操作性に優れ、情報共有ができる掲示板や細かい管理設定機能があります。14ヵ国語に翻訳できる機能や、簡単に提出できる日報機能など使い勝手の良いソフトです。

Workplace by Facebook

Facebook利用者にとってはなじんだシステムで使いやすいうえに、グループ内情報共有やタスク管理、組織図など、ビジネスに活用できる機能が充実しています。

InCircle

自動会話プログラムであるチャットボット機能を持っていますし、チャットデータから離職リスクを解析する機能もあります。手軽に始められるソフトです。

Direct

現場の写真や動画を管理保存する機能や、社外とのコンタクト時に秘匿性を発揮する機能を持っているので、例えば工事現場と本社内の担当者同士を安全につなぐ場合に便利です。

TopicRoom

端末に情報を残さない設計や暗号化など、強固なセキュリティー機能を持っており、情報漏洩のリスクを低減できるのが特徴で、万一端末を紛失しても安全性が担保されます。

まとめ

ビジネスチャットツールは、業務を効率化し迅速化することが期待できます。デメリットもありますが、社内での使用ルールを明確化しておけば解決できる問題です。ただ、チャット機能だけでつながってビジネスを進められるかどうかは分かりません。

自分の会社の事業形態や、自分に与えられた業務内容を吟味して、どの程度チャットツールにシフトするのかというバランス戦略を考えることが大切です。